「彩乃!これめっちゃおもろいじゃん!」

「え?」

梨々奈が私の方に駆け寄ってきた。

手にはスマホ。

画面にはあの漫画。

「なんか今、アプリで1巻まるまる無料で読めるんだって。みんなにオススメしたの。」

佐々木さんが笑顔でそう言った。

クラス中みんながその漫画を読んでいる。

「…みんな、バカにしないの?私のことオタクだって、バカにしないの?」

「は?うちも漫画読むよ。兄ちゃんの影響で少年漫画も全然読むし。」

「うん。これ面白いし。ただ、彩乃の好みは理解できない!ゴリマッチョって!いいやつだけどさ!」

亜美と美希がそう言いながら笑った。

「…佐々木さん、さっきは酷いこと言ってごめんね。」

「全然!坂口さんのおかげでみんなにこの漫画勧めることができたし!ちょっとびっくりはしたけど、あの後、樋口さんが、その漫画を読みたいって言ってくれて。」

「悠里ちゃんが…?」

「うん。今度今出てる全巻貸してって言ってくれたの。そしたらみんなも読みたいって言ってくれてね。」

なんだ。案外何も怖がらなくて良かったんだ。

悠里ちゃんは馬鹿なんじゃない、優しいんだ。

悠里ちゃんだけじゃない、みんな優しい。

辛くて仕方なかった場所から一歩踏み出したら、こんなにも優しい場所があったなんて。

この世界は私が思っていたよりも広いのかもしれない。