お風呂上り、僕は脱衣場から出て廊下にいたメイドさんに案内された部屋のバルコニーに出て、1人夜空を見ていた。多分、今は日本の時間でいう9時か10時位だろうか(この世界には時計が無い)。あと1時間位したら行こうかな。僕はこれからどうなるんだろう。少しづつ記憶も戻ってきている。それでわかった(思い出した)ことは、僕はどうやらこの世界に転生してきたらしいということ。どうしてなのか、なんのためなのか、それはさっぱりわからない。
「はぁ〜」

ピシッ

ため息と同時に世界の時が凍るように止まった。

「えっ、ちょ、なに!?」

何が起こったかわからずに慌てていると、
「やっと思い出したんだね」

後ろから声がした。ばっ、と後ろを振り向くと、そこにいたのは、身長は僕と変わらない少年?が笑顔で立っていた。何が起こったのか分からず立ち尽くしている僕に、

「あれ?おかしいな。僕のこと思い出したころだと思って来たのに」

えっ、思い出したころ?どういうこと?

「どうだった?何も知らない世界で自分のこともわからない1日は」

ああ、そういうことか。

「ハッキリ言って最悪。まぁ、少しは良かったけど……」

「えっ、最後の方、もう一度言って?」

「な、何でもない!」

「ま、いいけど。僕の名前はリノア。君をこの世界に転生させた神だよ。〇〇君、あっ!こっちの世界ではライムちゃんだったね」

ちっ、知ってんのかよ。おっと、危ない危ない。素の僕が出るところだった。少し心の中で毒づき、

「で、その自称神様が僕に何の用なの?まさか、ただ会いにきたとかそんなわけないよね?」

まぁ、どうせ、何かの試練かなんかやらされるのかなー。この世界がゲームの中だったら。でも、この世界は平和だから、悪の手から救えとか、魔王を倒せとか、そういう救済系はないよな。なんだろう。考え込んでいる僕の意識を引き戻したのは、自称神様リノアの意外な言葉だった。

「ふふ、リノアでいいよ。会いに来た理由かぁ、ライムちゃんのいうそのまさかなんだけどなぁ・・・」

まじですか・・・・・・

「へー、リノアって、暇なの?」

単純に気になったことを聞いてみた。いや、だって、神だよ?GODだよ?普通忙しいんじゃないの?と考え込んだ僕の意識を引き戻したのはまたもやリノアの一言だった。

「そうなんだよね〜。ライムちゃんの言う通り暇なんだよね〜。この世界って見ての通り平和そのものじゃん?まぁ、どうやって人口が増えているのかだけは秘密だけど(笑)平和ってことは、助けがいらないってことでしょ?僕、することないんだよね。で、ほかの世界をふらふらしていた時に死にかけていた君に出会ったんだよね。その後、死後の世界で君に声をかけた。理由?それは君が可愛い男の子でタイプだったからかな」

ゾクッ なぜだろう。今背中に悪寒が……それに今デジャブったぞ。最後のセリフ。

「ふ~ん。で、僕はこの世界で何をすればいいわけ?」

そう、結局のところここに戻るのだ。僕に何をしてほしいのやら。それに対してリノアは笑って、

「何もしなくていい。が、答えになるのかな。何度もいうけどこの世界は平和そのものだから普通に生活していいよ。でも、一つだけお願いがあるの!僕の話友達になってくれない?」

最後にリノアは手を合わせて言った。それを聞いた僕は、

「まぁ、前の世界は生きにくかったからいいけど……」

「ほんとに!?ありがとう!」

「うん。それで、連絡とかはどうするの?」

この世界にはスマホもなければ時計もない。カレンダーも無いから予定も建てれない。どうするんだろう。

「あ、それは、多分大丈夫だよ。僕はいつもこの世界のことを見てるから」

なるほど、だから、僕のこっちの世界の名前を知っていたのか。ん、待てよ。

「何個か質問していい?リノア」

僕はふと湧き上がった疑問を聞いた。

「一つ目は、どうして僕の記憶が曖昧なのか。二つ目は僕が魔物に襲われていた時も見ていたのか。と言うことの二つ」

リノアが最初に「僕のことを思い出したころ」と言った。それと、僕がライムと名乗った時のことを見ているなら襲われていた時も見ていたはず。僕はそう思った。その時、リノアが口を開いた。
「君が魔物に襲われた時も見ていたよ。あ、そんなに睨まないで。なぜ助けなかったかと言うとね、近くに人がいたからなんだよね。僕、神様だから人前に出るの少していこうあるんだよね。でも、そのおかげでイリスちゃんと出会えて良かったじゃん。そーいえば、ここってイリスちゃんの家なんだっけ?」
全くこの神様というものは…
「それは今は関係ないから次に進んで。」
僕は明らかに話を逸らそうとした。
「はいはい。それで、なんて聞かれたんだっけ?」
イラッ

「なんで僕の記憶が曖昧なのかだ!」
「あはは、そのことね。それはね〜」
もう、この神様は…
「僕が記憶を封じたからだよ。」
はぁ?今なんて言ったのこの子。
「僕の記憶を封じた?」
何の為に…
「ちょっとしたいたずらかな。おふざけだよ、許して。ちゃんと時間が経ったら戻るようにはしてたから!」
いたずらで人の記憶を封じただって?
そんなこと…
「「ダメに決まってるじゃないか(許せない!)」」
「「えっ?」」
僕とリノアは、別の声が聞こえた扉の方を見た。扉は少しだけ開いていた。ついさっきまで、そこに誰かがいて、僕ら2人の会話を聞いていたかのように。それとも、たまたま通りかかった誰かが…いや、それは絶対にあり得ない。なぜならそこにいた誰かはリノアがしたことに対して「許せない!」と言ったのだ。なぜだろう。まあ、いっか。そのうち考えればいいや。そこで考えるのをやめて、空の月を見た。月が真上に来ていて日付が変わっていた。
「もうそろそろ行かないとな。リノアまた話そうね。あ、でも、その時はどうすればいいの?」
今回はリノアから会いに来たから良かったけど、これからの連絡手段ってどうすればいいんだろ。
「そうだね…うーん。あ、じゃあ、これをあげる」
そう言って水色の結晶でできたイヤリングをどこからか出した。
「これは?」
「これは、君が元いた世界で言う携帯電話みたいなやつかな。それに触れている時は、僕と会話ができるよ。」
へえー、これがこの世界の電話か、かっこいい〜!
「リノア、ありがとう!」
「ううん。全然いいよ。だって僕が連れてきたんだし。色々な責任は取るよ」
色々な責任?まぁ、いっか。
「じゃあ、またね。リノア、近いうちにまた会おうね」
「うん。ライムちゃん楽しみにしているよ」
「ねえ、『ちゃん』づけはやめてよ〜!」
「あはは。またね。ライム」

リノアはそう言い残して、バルコニーから飛び降りて、そのまま空を飛んで行った。