ポカポカと温かい日差しに、さわやかな風。
チュンチュン。ピチチチ…
小鳥のさえずりまで聞こえる。
ああ、気持ちいい…
でも、どうしてこんなに気持ちいいのだろう。
私は家にいるはずなのに。外も明るいみたいだし。
え、もしかして朝!?
私はハッと目を覚ました。
目を開けて飛び込んで来たものは…
「は?どこ、ここ…」
新緑の広がる森だった。
私は急いで立ち上がり周りを見渡してみる。
どうやら私は大きな木の下で眠っていたらしく、手にはあの懐中時計を握っていた。
なんで森にいるんだろう…ベットで寝ていたはずなのに。
部屋着だったはずなのに制服着てるし。
私はまだ夢を見てるの?
そう思い頬を思い切り引っ張ってみる。…痛い。
痛いってことは、やっぱり夢じゃないのよね。
じゃあ、私はいつどうやってここに来たのだろう。
そんな事を1人でもんもんと考えていると、
「ん…」
木の裏の方から声が聞こえた。
ああ、よかった!人がいるなら安心ね。
その人に帰り道を聞いてみようと思い、私は木の裏に回る。
そこには…
白い肌に黒い髪。
つむっていても分かるくらいに切れ長で大きな目。
赤く薄い唇が、より一層黒髪を引き立てる…
とても整った顔をした男の人が座っていた。眠っているようだ。
めちゃくちゃイケメン…て言うかキレイ…
私はまじまじと見入ってしまった。
でも、この服はなんだろう。
まるで小さい頃に読んだ絵本の王子様みたいな…
イケメンでも王子様のコスプレは痛いな…。
「くぉらっ!小娘っ!そちらはこの国の王子であらせられるぞ!何を見ておる!」
突然後ろから声がする。
私は慌てて振り返るが…誰もいない。
「下じゃ!馬鹿者!」
そう言われたので目線を下に落とすと、白いうさぎがいた。
二本足で立っているし、服も着ている。
ルビーのような真っ赤な目で私を見つめていた。
「可愛い…」つい、そう言ってしまった。すると、
「可愛いとはなんじゃ!ワシは可愛くなどない!王子に仕える立派な執事じゃぞ!」
「え、うさぎが喋った!」
「うさぎではない!ラビーじゃ!さっきから失礼じゃぞ!」
何やらプリプリと怒っているけれど、それもまた可愛くてしょうがない。
私がうさぎを撫でようとすると、ピョンッと飛んでその手を払い退けた。
「触るでない!そして王子から離れろ!」
…そんなに怒ることないじゃない。
あまりにもうさぎが怒るので、仕方なくその場を離れようとした時だった。
さっきのキレイな男の人が私の腕を掴んでグイっと引っぱったのだ。
うさぎが後ろで「だから忠告してやったのに…」と頭を抱えている。
なに?と考える暇もなく。
……ちゅ。
キスをされた。
…何が起きたの?
うさぎと話していて、そしたらキスを…
「き、きゃああああ…!//」
私は状況を把握して叫んだ。
そしてうさぎに問いかける。
「ねえ!この人どうしてキスしたの?!ねえ!」
ブンブンとうさぎを揺すぶるが「この人ではない。王子だ。」などと言っている。
なんでいきなり冷静なのよ!
うさぎは騒いでいる私を無視して口を開いた。
「おはようございます。王子。」
深々と頭を下げている。
私もさっきキスをしてきた人…王子と呼ばれるその人を見る。
「うーん、よく寝た…」
王子と呼ばれるその人は呑気に伸びてあくびをしていた。
そしてチラリと私を見た。
目が碧い…やっぱりキレイな人…。
っじゃなくて!なんでキスされたの!?
私、初めてだったのに…!
「ラビー。このヒステリックで真っ赤な顔をしたお嬢さんは誰だい?」
あ、声もかっこいいんだ…って、だからそうじゃなくて!
混乱している私を置いて二人は話す。
「はい。このラビーも分からないのです。王子を起こそうと森へ来たところ、この娘が王子をまじまじと見つめておりました。」
そのうさぎの言葉で、王子は今度は私をじっと見つめる。
何かを見定めるような鋭い目付きに私は固まってしまった。
「な、なに…?」
問いかけてもまだ見つめてくる。
なんか恥ずかしい…っ
今まで見つめられて恥ずかしいなんて感じたことなかったのに!
またうさぎが口を開いた。
「…王子。本日の目覚めのキスはその娘でありました。」
その言葉に、王子と呼ばれる人は「ふーん」と返事をして、
私にニッコリと笑いかけた。
そして、私の前にひざまずいて手を取って言った。
「あなたは異国の王女様なのですね?わざわざあなた様から来て頂けるとは光栄です。」
そう言って、王子は私の手の甲にキスをした。
その一連の動きがとても優雅で見惚れてしまう。
「え?いや、私は王女じゃないですけど…」
「そうですよ、王子!この娘の召し物は見た事がございません!第一、今日は訪問者の予定は…!」
うさぎが王子の言葉を否定する。
まあ、王女じゃないけどさ…そこまで否定されるとムカツクわ…。
「たまたま近くを通ったから寄ってくださったのでしょう?」
王子がニコニコと話しかけてくる。
「いや…だから私は王女じゃ…」
「こんな所で話すのもなんですし、城で話しましょうか。」
ニコニコ笑顔を崩さずに話を勝手に進めて行く。
この人…全っ然話し聞いてないな。
疑いの目を向けてくるうさぎと、全く話を聞かない王子とやらに連れられて私は森を進んで行った。