柔らかい風が吹く。冬の名残も消え、暖かさが村に満ちるようになった。
 その風が、丘の木の葉と共に青年の黒髪をふわりと撫でてゆく。
 ふと、青年は村のほうに目を向ける。
 風に運ばれて名を呼ばれた気がしたが、気のせいだったようだ。
 丘は村から離れており、聞こえるのは風の音と鳥のはしゃぐ声。
 青年は目線をまた空のほうへ戻し、こののんびりとした穏やかなひと時を堪能することに専念した。
 季節は初春。うららかな空気に誘われるように青年は木陰に腰を下ろし、瞼をおろした。