敵は、お金はもちろん、お金になりそうなものは全部出した。
免許証や学生証、マイナンバーも。
「あの・・・瑞希君・・・・?」
「瑞希お兄ちゃん、これは一体・・・?」
(どうする気だろう??)
そう思った私の疑問は、すぐに解決した。
戸惑うチーフさんと私・・・白神さんの方を見ながら瑞希お兄ちゃんは言った。
「白神さん・・・いや、シロ君。お店の責任者に電話して。」
「え?シロ君?」
「白神ちゃんのあだ名よぉ~イマドキ、心も綺麗な人なのよねぇ~」
「モニカちゃん・・・」
ニコニコしながら、私に解説してくれるモニカちゃん。
その横では、さらなる話が続く。
「電話するのは、シロ君じゃなくていい。そこの眼鏡の兄ちゃん。」
「ぼ、僕ですか?」
一番きつく、片淵セイヤをにらんでいた男性スタッフさんだった。
「そうだ。あんたが電話してくれ。話す内容は~『店でバカ騒ぎしたガキが、店の備品を壊して白神チーフに怪我させた。相手は反省して、ありがね全部出して警察だけは勘弁してくださいと謝ってきた。どうしましょうか?』ってとこか。」
「え!?瑞希君、それは~」
「『え!?』じゃねぇよ、シロ君・・・・この金で、シロ君の治療費、足ります?」
「え?ああ、多分・・・十分だと・・・・」
「そう言いきっちゃいけませんよ。医者に診てもらわないとわかりませんよ。で?壊された食器やインテリアの修理には足りますか?」
「ええ!?いや・・・これだと全然・・・」
「足りませんよね?本来ならば、警察ですが・・・相手は未成年。」
そうつぶやいた片足が、ダン!と強く床を叩く。
「『有り金と合わせて、身分証明書も差し出して誠意を見せたので・・・・親を呼びつけて示談にと思っていますが、いかがですか?』と言えば、後は上が良いようにしてくれるでしょう。」
「瑞希お兄ちゃん!?」
「瑞希君、それで警察を呼ばないと・・・!?」
そうだったんだ!
(瑞希お兄ちゃんが、身分証明書を・・・・身元がわかるものを出せって言ったのは!?)
彼の華麗なる差配(さはい)に、全員が感動する。
問題を起こした蛇の目でさえも。


