「瑞希、しつけはそれぐらいにしておけ。」
「伊織。」
「・・・・獅子島さん。」
暗い気持ちは、獅子島さんの一言で心の奥底へと沈む。
負の感情にフタをしたところで、メガネの先輩が瑞希お兄ちゃんに聞いた。
「ところで、瑞希。タカオが頼んだのはなんだ?」
「アイスコーヒーだけど?」
「お前、シロップを2つつけたのか?」
「ああ、セルフサービスだけどな。」
「では、ここに置いてあるのは忘れものだな。」
「あ!?」
指さす方を見れば、置き去りにされていた。
「あいつ、甘党だと言っていたな。苦いのを飲むことになるのだろう。」
「馬鹿言うなよ!やべ~届けたやらねぇと・・・」
「ならば凛道に行かせればいい。瑞希お兄ちゃんに怒られたからという理由で、辛気臭い顔で店先に立たれては困る。」
「そ、そんなことないです!ちゃん、笑顔で対応を~」
「できねぇよ。」
「瑞希お兄ちゃん。」
「できてねぇから、伊織が言ってるんだろう。」
言い返せなくて固まる。
「商売はお手伝いじゃない。これから人も少なくなる。2人でも十分だ。」
「そんな!?」
「3人もいらねぇーから、行って来い、凛。ちゃんと、渡して来いよ?」
「あ・・・」
私に、忘れ物を押し付けながらきつい口調で言う。
「い、いってきます・・・」
そっぽを向かれ、しぼり出しながらしゃべる。
いたたまれなくて、逃げるようにその場から離れた。
これ以上、不機嫌な彼を見たくない。
怒らせたくない。
(怒らせるつもりは、なかったのに・・・)
目だけで、チラッと彼の方へを見る。
その時にはもう、お客さんの相手をしていた。
私が好きな笑顔で、女性客と話していた。
(瑞希お兄ちゃんの馬鹿・・・・!)
私の本心も知らないで。
手にした2つのシロップをにぎり、私は人混みの中へと進んだ。


