まだ目の前にいるから。



じっと顔を覗き込むと、潤んだ瞳と交わって胸の高鳴りが大きくなっていく。



ぼんやりしているようにも見えて、いつもより二重幅が広く、トロンとした目つき。



…なに、その表情。



こんなことしなければよかったと後悔したけどもう遅い。



瞳に吸い込まれるように、かかとを浮かせて背伸びした。



視線はもう、その唇だけ。



……自分が自分じゃないみたい。



そんなふうにしたのはこの男のせい。



匠のせいでしょ?



自分からキスするなんて、思ってもみなかった。




「ふっ……柚奈のくせに煽るなんて生意気」