さよならはまたあとで


昇降口で上靴を脱ぎ、その代わりに、やっと足に馴染んできたローファーを履く。

湿気った空気の中に出る。
雨は一向に止む気配はない。


「あ」


ここまで来て、私は教室に傘を忘れたことに気がついた。

今から戻るの嫌だなぁと私はため息をつく。

私の教室は校舎の四階。
夏場は教室までの道のりで汗だくになる。


「傘、ないの?」


そんな時だった。
律太の声が聞こえた。

そんな、律太は今日、早く帰ってしまった。
今、ここにいるはずがない。

恐る恐る私が振り向くと、そこにいたのはやっぱり律太だった。


「なんで?なんでいるの?」


「優恵ちゃんのこと、一人残して帰っちゃったから。
用事ひと段落したから様子見に行こうと思ってさ。
そしたらここで立ち往生してる優恵ちゃんを見つけた。」


律太は右手に長くて黒い傘を握っていた。


「今日は家まで送るよ」


律太は傘をバッと開いた。
律太一人が入るには十分過ぎる屋根が出来上がる。
傘の下の律太は私を小さく手招きした。


「一緒に帰ろう」


私は小さく頷いて、律太と同じ傘に入った。

息遣いが聞こえる距離に律太がいる。

そっと彼を見上げると、彼はくすぐったそうに笑っていた。

傘を打ち付ける雨音が、私たちの静寂を紛らわせてくれる。

いつもたくさん話すのに、距離が近くなると緊張してしまう。

たまに私の肩が律太の腕に当たる。

その度に「ごめんね」と言いながら私たちは歩き続けた。