さよならはまたあとで


「あっついねぇ、まだ6月なのに!」


渚は首から下げたスポーツタオルを扇風機の羽のように振り回す。


「ちょっと踊っただけでこの汗。
いっそ雨にでも濡れてこようかな、シャワー代わりに」


渚は「あはははは」と声を出して笑った。

渚はどうやらダンス部らしかった。

文化祭に向けての練習の真っ最中らしい。

今日はそんな練習を、私のために抜けてきてくれたようだった。


「もう、行ってきな!びしょびしょになって風邪引いても知らないからね」


七瀬がため息をつく。


「そんなことより、優恵ちゃんの採寸に来たんでしょ?」


七瀬は制服のポケットからメジャーを取り出すと、目盛りの部分をギューっとのばした。


「今年のファッションショーのテーマはプリンセス。優恵ちゃん、お姫様絶対似合うよ」


「ほんと、優恵ちゃん雑誌に載ってても全然違和感ないからね!!」


渚も七瀬も私を褒めてくれる。

なんだか複雑な気分。

お天気雨のような気分だ。

渚と七瀬はああでもないこうでもないと話しながらどんどん採寸を進めていった。

私は初めて5時の鐘を教室で聞いた。

5時半を過ぎた頃、担任が鍵を片手に早く帰るように催促しに来た。

彼のおかげで、私はやっと放課後の準備から解放されたのだった。

もう一人はごめんだ。


私は今日、律太の凄さを実感した。

律太が適当だろうが、気怠げだろうが、クラスのみんなは話を聞く。

文句も言わない。


そういえば、燈太も…

律太のことを考えると、必ず脳裏に燈太が過る。

最期に燈太が、「好き」だなんて言うものだから、私は未だに燈太を好きなままでいる。

もういない。

知ってる。

叶わない恋。

分かってる。

でも、それでも、私の描いた燈太とのこれからの日々を、拭い去ることができない。

どこにいても、何をしてても、燈太がちらつくのだ。