さよならはまたあとで


玄関の引き戸を開けると、何か柔らかいものが飛び込んできた。


「乱丸…?」


小春さんの足下をうろつく小さな猫。
間違いなかった。

乱丸のことを自慢気に話す燈太の姿が蘇る。
楽しそうに、幸せそうに、まるで自分のことみたいに話していた彼の姿。

視界がぼやけて、私の両目から我慢していた涙がこぼれ落ちた。

もう、燈太のことで泣かないって決めていたのに。


「…すみませんっ、こんなつもりじゃっ」


手の甲で涙を拭いながら言葉を絞り出す私を見ていた小春さんも、いつしか目を潤ませていた。


「燈太はいろんな人から愛されていたのね」


小春さんは乱丸を抱き上げるとそっと呟いた。


「ありがとう、燈太のために泣いてくれて」


「泣くことしかできないんです」


私は涙を拭いとると笑顔でそう答えた。


「お墓の場所は分かる?」


隣で鼻を啜る明良に小春さんは聞く。

頷く明良に小春さんは笑いかけ、「またね」と手を振った。