律太と葛城の方へ走り出そうとした瞬間、くいっと制服のシャツを掴まれて、私は危うく転びそうになった。
何事かと後ろを見ると、そこにいたのは文化祭以降、全く音沙汰もなかった渡井明良の姿。
「すぐ行くから、ちょっと先行ってて!」
私は二人に叫んだ。
「ねぇ、」
相変わらずとろんと眠そうな目の彼はポケットからスマホを取り出した。
「夏休みになっちゃうから交換しよぉ?」
彼は私が返事をする前に、ひょいと私の手からスマホを奪い取ると、慣れた手つきで連絡先を交換した。
「うひひ、ありがとー」
彼は満足げに笑いながら、ふらふらとその場を離れていった。
後夜祭を終えて家に帰ってから、私は幼かった頃のアルバムを見返していた。
突然現れた渡井明良。
全く記憶に残ってさえいない彼が誰なのか、少しでもよく知っておきたかったのだ。
貪るようにページをめくる私を、お母さんは心配そうに眺めていた。
「誰か探してるの?」
気づくとお母さんは私のすぐ隣にいた。
「…渡井明良…って、お母さん知ってる?」
「知ってるもなにも、小学校からずっと一緒じゃない!家も近くだし。…まさか覚えてないの?」
私が頷くと、お母さんは「そっかぁ」と呟いた。
それから、明良の写っている写真を指差しで教えてくれたのだった。
どの写真も相変わらず眠そうだった。
彼は誰なのかはだいぶ分かった。
写真を見て、だいたいの思い出も蘇った。
燈太が現れる前…いや、事件前に抱いていた彼への気持ちも。
ゆらゆらと遠のいてゆく彼の背中をしばらくぼーっと見つめてから、私は先に行ってしまった二人に追いつくように走り出した。

