「ったく」
聞きなれた声に振り向くと、電話をしながら何処かへと急ぐ葛城の姿が見えた。
私は思わず立ち上がり、彼の後を追う。
彼が止まったのは、文化祭の喧騒から少し離れた静かな場所だった。
「律!お前、今どこにいんだよ」
それは怒りをはらんだ声だった。
耳をすますけれど、律太の声は聞こえない。
「お前ファッションショーも来てなかっただろ。優恵ちゃん、ずっとお前のこと探してたんだぞ」
あれ、葛城にはばれていたらしい。
「待ち合わせの時間だって、こんなに遅れて。そんなんじゃ、俺にも考えがあるからな。」
葛城は自分の腕時計をチラチラ覗いた。
「あのさ、俺がどんな気持ちで律と優恵ちゃんを応援してるか知ってる?」
少しの間があった。
蝉の声だけが耳に残る。
「俺だって、優恵ちゃんのことが好きなんだからな、ばか。」
葛城の声は震えていた。
私も驚きで口がぽかんと開けっぱなしになってしまう。
「でも、優恵ちゃんは…律と、もう一人の間で揺れてる。俺はそこにはいないから」
「…分かった。これが最後だと思えよ」
プツリと電話を切ると、葛城はくるりと振り返った。
私が隠れるのが少し遅かった。
葛城は驚いた顔で私を見つめる。

