「私、あまり異性の人と話をする事に慣れてないんです。ましてや自分の学校の先輩を前にしてるなんて驚きです。だけど、気さくに話しかけてくれる草壁先輩のお蔭で、とてもリラックスできます。それって、人を安心させるからだと思うんです。そういう風に思ってるのきっと私だけじゃないです。こうやって草壁先輩とお話する機会があって、しかも色々と助けてもらって私の方が嬉しいです」

 こんな風に話せるのも、草壁先輩が悩みを打ち明けて来たからかもしれない。

 より一層に親しみを感じ、自分も飾らないまま、遠慮する気持ちや、体裁を気にする部分が跳ね除けられた。

 この時草壁先輩を意識しないで、自然体になって話せる自分がとても不思議なくらいだった。

 それは近江君の時も同じだったと、ふと頭によぎる。

 でも近江君の方が自分と同じ学年なだけにもっと砕けて接することができる…… 

 と、考えている間、先輩はまた言葉を失ったように面食らって私を見ていた。

 近江君の事を考えていたせいもあるが、随分落ち着いていため、口をあけてポカンとしている草壁先輩を見るとなんだかおかしくて、つい笑い出してしまった。

 先輩もそれに釣られて笑みを添えた。

「そんな風に思ってくれてるのなら光栄だ。俺も千咲都ちゃんと話しているのは楽しいよ。いい後輩に巡り合えてよかったよ。これもハルのお蔭かな。あいつも千咲都ちゃんのこと気にかけてるみたいだ。ハルも何か様子がおかしいと思ったらしく、俺に知らせて来たんだ」

「えっ、近江君が……」

「あいつも俺の事情は知ってるんだ。だからこの異変に気がついたんだと思う。そしてどこかで情報を仕入れたに違いない」

 そういえば、図書館で見た女性がサクライさんの取り巻きの一人として五人の中にいた。

 近江君はそのことに気がついて勘が働いたのかもしれない。

「なんだか探偵みたい」

 近江君の事を考えていると、ついクスッと笑いを洩らしてしまった。

「探偵? ハルが? いや、あいつなら何かやらかす犯人の方が似合ってる感じだ。今はあんな感じでいるけど、千咲都ちゃん、ハルにはまだ気をつけた方がいいかも」

「えっ?」

「あっ、いや、別に深い意味はないんだ。それじゃ、俺はこの変で失礼するよ。そろそろ部活に行かなくっちゃ」

「先輩、色々とありがとうございました。あっ、そうだ」

 その時、小道具として持ってきたチョコレートの事を思い出した。

 上手く希莉との仲直りに活かせなかったが、このまま持って帰っても仕方がない。

 それなら誰かに食べてもらった方がいいと私は慌てて鞄からそれを出して、草壁先輩の前に差し出した。

 躊躇して面食らっている先輩に無理やり押し付け、手渡す。