私は何か気に障る事を言ったのだろうか。

 私を見つめる草壁先輩の目は見開き、動きが止まった。

 暫く何も言わずにじっとされると、こっちがそわそわして落ち着かなくなった。

 いくら親しみが湧いたといっても、後輩の分際で少し調子に乗りすぎたのかもしれない。

「あ、あの、私何か失礼なことでも……」

 おどおど戸惑っている私に気がついて、草壁先輩は我に返って優しく微笑んだ。

 背筋をピンとさせ、改めて私と向かい合う。

「ううん、その反対。初めて自分の内面で素敵だといわれて、ちょっと嬉しかったんだ」

「えっ?」

「いつもさ、お世辞でも、女の子達はかっこいいとかハンサムとか僕の顔や見かけのことだけしか言わないんだ。そりゃ、正直そういわれたらまんざらでもないけど、そればっかりしか言われないのも、なんだか中身のないような男みたいで、上辺だけで判断されるのが却って自尊心に傷がつくというのかさ、うんざりしてたんだ」

「は、はぁ」

「千咲都ちゃんは俺の中身を見てくれた初めての女の子だ」

「えっ? そ、それは、皆さんも本当はそう思ってると思いますよ。や、やっぱりそれらを全部含めてオーラが出てくるからかっこいいって、そ、その、それを言いたかったんじゃないでしょうか」

 なんだか自分でも訳がわからなかった。

 あたふたして言い訳するのもおかしいようにも思えるし、今更何を必死に伝えないといけないのだろう。

 草壁先輩は誰が見てもかっこいい。

 それは事実であり、自分ごときが説明したところで陳腐に思えた。

 私は肩の力を抜き、草壁先輩をじっくりと見据え、一呼吸ついた。

 草壁先輩は「ん?」とした顔で私を見ている。

 あれほど先輩を前にして、どぎまぎしていた自分が嘘のように、そして急に度胸がついて落ちついた。

 その勢いで私は自然と笑みをこぼした。

 堂々と、普通に先輩と向き合う。