「な、なんでそこで、睨みつけて沈黙するんだよ」

 近江君に会いたいと思って来たわけじゃなかったけど、会えるかもしれないと思う気持ちは確かにあった。

 それを否定するのも嫌だし、誤魔化すのも嫌だし、素直に嬉しそうに笑うのも嫌だった。

 この時私はポケットに手を入れ、スマートフォンを握り締めている。

 ブンジの写真を見せたくて、はやる気持ちを抑えてどうしようかと迷ってるとこんな顔になっていた。

 近江君とはすでに免疫がついてしまったのか、こうやって会っていても抵抗がなくなった。

 異性と一緒にいれば、常に意識してぎこちなくなるのに、近江君はそんな事も感じさせずに普通に話せる。

 それは昨日、私を気にかけてくれたことで、親しみを抱いたからかもしれない。

 近江君の前では気取らずにそのままでいられるのが不思議だった。

 いつも一人でいるから妙に構える必要がなくて、気さくさな性格が私を落ち着かせる。

 気軽に声を掛けてくれるのもとても有難い。

「私、あまり異性と話すの苦手なんだけど、近江君はどこか何かが違う。だから、無意識にやっぱり会いたかったのかなってちょっと思った」

「おっ、遠山は、俺には素直じゃないか」

「素直?」

「そう、無理せずにいられるって言う意味」

「あのね、どうして私が無理してるとか思うわけ?」

「ん…… 別に意味はないんだけど、たまたま目について見てたらそう思った」

「やっぱり、私っておかしい?」

「全然、おかしくないけど、無理をしてたら疲れないか? きっとどこかで悪影響に繋がるぜ」

「なんでそこまで、私の事見てたの?」

「えっ、そ、それは…… ブンジかな」

「ブンジ?」

「うん、猫。猫飼ってるだろ。俺、猫好きなんだ」

 どうして猫が関係して私を見ているのかがわからないが、猫好きというのがどこかで引っかかってたのかもしれない。

 とにかく、この時私はいいチャンスだと思った。

 さっきから握っていたスマートフォンをポケットから取り出し、素早く画面にタッチして操作すると、それを近江君に差し出した。

「ねぇ、これ、これ見て」

「あっ、ブンジ」

 近江君の顔が弛緩して笑顔になっていた。

 ブンジを見てそんな顔をしてくれるのが、私にはとっても嬉しい。

「かわいいでしょ」

「いい猫だな。凛々しい姿してる。上手く撮れてるよ。画質も綺麗だな。なあ、このブンジの画像、俺のスマホに送ってくれないか」

 近江君がポケットからスマホをとりだし準備する。

「うん、いいよ」

 近江君がブンジをとても気に入ってくれたのが私も嬉しい。

 喜び勇んでスマホを操作した。

 ブンジの話題になると私も一層心を開いてしまう。

「近江君は猫飼ってないの?」

「今のところはな。いつか飼えたらとは思ってるけど。あっ、これも、これも送って」

 沢山撮ったブンジの写真が近江君のスマホへと送信される。

 近江君は早速自分のスマホに届いたブンジの写真を見て、ニヤついていた。

「早く、猫飼えるといいね。その時は私にもどんな猫か見せてね」

「ああ」

 近江君はスマホから顔を上げ、私をじっと見詰めだした。