「だって、先輩だし、緊張しちゃって」

「たかが一年違いなだけで、そこまで考えなくても。大した事ないって。俺だって以前は一年だったけど、そこまで上級生の事なんとも思ってなかったな」

 私は返答に困ってしまって黙っていると、草壁先輩はくすっと笑った。

「ほら、今もかなり怖がってる」

「関係ないのに草壁先輩を突然頼ったりしてやっぱり迷惑かけちゃいましたし、自分でも困惑しすぎて何してるのかわかってないんです」

「俺は頼られて嬉しかったよ。ちょっと上級生気取りにもなれたし。あっ、自分で上級生の立場を誇張してしまってるな。そりゃ緊張させるわ」

「いえ、そんな」

 なんで一緒に帰ってるんだろうと思いつつ、緊張の面持ちで私は肩を並べて歩いていた。

「ねぇ、千咲都ちゃんは、ハルと仲がいいのか?」

「仲がいいって言うわけでは、でも近江君からいつも話しかけてくれます」

「そっか。あいつさ……」

 草壁先輩がそこまで言いかけたが、その後は首を横に静かに振って「なんでもない」と話をそこで終わらせた。

 近江君の何を言いたかったのだろう。

 私が気にかかって、草壁先輩の顔を見つめると、先輩は優しい笑顔を返してくれた。

 一歳年上なだけですごく大人に見えるし、そして自分とは違う次元にいる人にも思えて、それは神々しい。

 こんな曇りの天気ですら、そこに太陽が出たように眩しく見えるようだった。

「千咲都ちゃんって不思議というのか、面白いね。ハルが声掛けたくなるのもわかる気がする」

「違うんです。私って、表面的な部分だけしか見てなくて、それに合わせようと無理するタイプなんです。それがきっと痛い奴に見えて、近江君は見かねただけです。近江君は人を見る目があるというのか、観察力がすごいです」

「ふーん。でもハルにそんな能力があったっけな」

「あるんです。結構鋭いんです」

「例えばどんな風に?」

「私、今一緒にいるグループの女の子達とは見分不相応なのに、その中に入って自分もあやかってかっこよく見られたいなんて思って一緒にいる事を、近江君は無理してるって見破りました。本当にその通りで、身の程知らずです。あの手紙が引き金となって、思い知らされました。そのせいで友達関係が気まずくなって しまったんですけど」

 私は懺悔する思いで草壁先輩に希莉との事を話してしまった。

「そっか。それで思いつめて、今日の出来事に繋がるわけだ」

「手紙の事は先輩に助けてもらったので、一つ解決できましたけど、希莉が何を怒ってるのかわからなくて、あっ、希莉っていうのが友達の名前です」

「うーん、女の子は複雑だからね。俺にもよくわからないけど、千咲都ちゃんは全ての経緯をその女の子に全部話したかい?」

「えっ?」

「取引きがあって、そうなったことを言ってないんだろう」

「それは、近江君のプライベートなことに繋がると思って、そこは端折りました」