何もかも私が悪い。

 悲観的にしか考えられなくなってしまった。

「千咲都ちゃん、別に泣かなくてもいいんだって。悪いのは出渕だから」

 草壁先輩は私を擁護してくれるけど、全く関係ない草壁先輩に頼ってしまったことも悪くって、全てを抱え込んだ上で押しつぶされてしまった。

「泣かれると困っちゃうな。俺、本当に悪いみたいじゃないか」

「お前、ほんとに悪いんだって!」

 草壁先輩は出渕先輩の頭を叩いていた。

「仕方がないな。もういいよ。気にするな。相手が受け取らないんだったらどうしようもないから」

 出渕先輩は引き下がるを得ないと、私の涙に完敗した様子だった。

「それと、あの、近江君のことですけど」

 くしゃくしゃの顔で洟をすすりながら私は言った。

「えっ、ハル? ああ、虐めないでってことか。まあ、別に俺は虐めてる訳じゃないんだぜ。千咲都ちゃんの目から見たらそう見えただけなんだよ」

「お前は限度って言うものを知らないからな。結構ハルだって迷惑していると思うぜ。いい加減にしろよ。あいつの事はそっとしておいてやれ」

「ちぇっ、こっちとしたら仲良くしてるつもりだったんだけどな」

 さっきから感じ方がずれてるだけに、出渕先輩はそう思っていても、他の人の目には全く違うものとして映っていたことだろう。

 この人は感覚がおかしい。

 自覚のない人程、人を追い詰めてるとは露ほどとも思わないものだ。

 要注意人物なのは間違いない。

 でも草壁先輩が中に入ってくれてとても助かった。

 涙と鼻水と横隔膜に入り込んだ息遣いで、無茶苦茶だったが、私は草壁先輩に必死にお礼をいった。

 そして、出渕先輩にも理解してもらえた事を感謝した。

 早く終わらせたい、早くここから去って忘れてしまいたい、その一身で最後に謝った。

「下級生の分際でほんとに皆さんにご迷惑掛けてすみません」

「千咲都ちゃん、そんなに必死にならなくても。純粋だね」

 草壁先輩は私の気持ちを汲み取り、温かい眼差しを向けてくれた。

「それじゃ、失礼いたします」

 もうこれ以上ここに居るのは我慢の限界だった。

 及び腰に体はすでに後ろに下がっている。

 逃げるように踵を返したが、草壁先輩がすぐさま私を呼び止めた。


「慌てなくてもいいじゃん。よかったらもう少し色々と話さないか。今そんな顔で飛び出されたら、それこそ、俺達がなんかしたって思われるぜ」

「えっ」

 私は慌てて顔を拭い、何でもないようにしようとしたが、涙が出た後の赤い目は中々変えられるものではなかった。

 私が顔を拭ってる間、みんなが注目して見ていたことにはっとすると、私は恥かしくて急に足の力が抜けて、よたついた。

「おいおい、大丈夫かよ」

 草壁先輩が咄嗟に近寄ってくる。

「だ、大丈夫です」

 全てが恥かしくて、今度は熟れたトマトのように顔が真っ赤になっていく。

 心配で顔色が青くなったり、恥かしさで赤くなったりなんとも忙しい。

 目の前には上級生の男子生徒が何人も居て、その全ての視線の先は私だった。一度に浴びた注目の怖さで、極度のストレスから最後は失神してしまいそうだった。

 全然大丈夫じゃなかった。

「千咲都ちゃんって無理するタイプだね。なんか守ってあげたくなる」

 草壁先輩の手が私の体を支えていた。

「ひぇ~」

 奇声を出して私は飛び跳ね、バタバタと手を振って草壁先輩から離れた。

 気が触れて飛び立とうとしてたのかもしれない。