目が合い、私は尽かさず頭を深く下げて礼をすると、草壁先輩はすぐに気がついてくれて、不思議そうに私の方へやってきた。

 周りに居た男子生徒が「ヒューヒュー」といった冷やかしの声を出して、からかっている。

 残っていた女子生徒達はそれとは対照的に異物をみるように冷ややかな表情で私を見ていた。

「あっ、千咲都ちゃん、だっけ。どうしたんだい?」

「あの、突然すみません。今いいですか」

「いいけど」

 入り口で注目を浴びてたので、私は廊下の方へと移動すると、草壁先輩も合わせてついてきてくれた。

 そこで鞄から手紙を取り出して、出渕先輩の事を説明した。

 草壁先輩は黙って全てを聞いてくれた。

「そっか、ハルを出汁にして出渕がそんな事を頼んでたのか。君もとばっちりだったね。しかし、君の猫はいい仕事をしたと思うよ。そんな手紙はほんとゲロッて正解」

 染みのついた手紙を抵抗もなく私から取り上げて、大いに笑っていた。

「えっ、そ、それは」

「事情はわかったから、今から出渕のところに行こう。俺から注意してやるよ」

「あの、それで近江君を虐めないこともお願いできますか?」

 ここでまた草壁先輩は大いに笑い出した。

「ハルも幸せもんだな、陰で心配されて。ハルのためにと嫌なことを引き受けた君も一途だね」

「近江君、教室でいつも一人だし、なんだか放っておけなくて」

「へぇ、ハルはクラスに馴染んでないのか」

「馴染んでないというより、休み時間も勉強しているから、誰も近づけないでいるんです」

「えっ、あのハルがまじめに勉強してるなんて信じられない」

「あの、なんで草壁先輩は近江君の事知ってるんですか」

「えっ、なんでって言われても、知ってるから知ってるんだけど、でもそれはハルに聞いてくれ。その分だとハルはやっぱり色々と隠してるみたいだな」

「隠してる?」

 そういえば、近江君も知られたくない事があるとは言ってたけど、それが上級生に虐められる原因になったのだろうか。

 私が考えていると、草壁先輩はあの手紙を手にして歩き出した。

「ほら、一緒にいこう。おいで」

「えっ、あっ、はい」

 慌ててついていくが、その時教室の入り口で草壁先輩と同じクラスの女子生徒数人が、私をじっとみていた。