「えっと、灰色のトラ猫って言えばいいのかな」

「見かけじゃなくて性格の事。結構凶暴?」

「ううん、そんな事全然ない。ブンジは犬の性格に近いかも。いつも側に来てくれて、私に甘えてくれる。すごく可愛くて、最高な猫」

 私は自信を持って力強く言っていた。

「そっか。いい猫なんだ。だけど猫の事を話している遠山は生き生きしてる」

「えっ? そ、そうかな」

 取り繕って近江君に振り返れば、近江君は気障っぽく笑っていた。

 教室に戻り、再び自分の席に着けば、近江君は誰よりも早く教科書を開いて勉強モードになっていた。

 先ほど一緒に居たことが嘘のように、昼休みは過ぎ去った。

 近江君が私と昼休みを過ごした。

 貴重な時間なのに、私に気を遣ってくれたことは素直に嬉しい。

 暫しそれに捉われて、心が軽くなる。

 でも希莉の姿が目に入った時、それはすぐに消えうせ、再び現実に引き戻された。

 例のあの不幸の手紙のせいで、がたがたと崩れてしまったこの末路。

 あの手紙をどうすればいいだろうか。

 返すにも出渕先輩になんて説明したらいいのだろう。

 ブンジのゲロまで付いてしまってるだけに、お返しするのも恐ろしい。

 かといって、いつまでも持っているわけにもいかないし、本当にどうしよう。

 それに、近江君を虐めないでと約束したことはやっぱり無効になってしまうのだろうか。

 頭の中が色んな事でぐるぐるとしてしまう。

 私だって文句が言えるのならいいたい。

 『あなたの手紙のせいで希莉と仲が悪くなりました。責任取って下さい』

 上級生にそんな事言えるわけもなく、あの厳つい体つきと顔を思い出せば、私の方が手紙を大切にしなかったことで責められそうだった。

 『お前が、それを汚したから汚くて受け入れられなかったんだろう。この落とし前どうつけるんだよ』

 これが原因で近江君が再び虐められたら、私の責任だ。

 こんな事一人で背負うには重過ぎる。

 誰か助けて欲しい。

 誰でもいいから助けて。

 誰か~

 藁をも掴む思いで、助けてくれる人はないかと思った時、何気に草壁先輩の事がぽっと頭に浮かぶのだった。