柚実がいたのでお昼はかろうじて集まり、他のグループも混じって一緒に食べたが、希莉とは席を適度に離して口を交わすことは絶対なかった。

 少しでもこの状況を改善したいと思いつつも、一方的に責められて、謝っても鬱陶しいと言われたらどうする事もできなかった。

 なぜ希莉は水に流してくれないのだろうか。

 私はいつだって希莉が何か間違ったことをしてもすぐに許してきたし、それに対して文句を言ったことも否定したこともない。

 そういう不公平さが、時折私を苛立たせて投げやりな感情もでてきてしまう。

 複雑な思いを抱えて、遠くから希莉の様子を伺えば、希莉は頑なに心閉ざしてしまうようだった。

 これ以上希莉に近づくのが怖くて、私は動きを封じ込められたみたいにとうとう孤立してしまった。

 耐えられなくなって用事を装い、昼休みお弁当を食べ終わると私は一人で教室を抜け出した。

 これと言って目的もなく彷徨って廊下を歩いていると、後ろから肩を叩かれた。

「よぉ、遠山、なんか元気ないけど、大丈夫か」

 驚いて振り返った先には近江君がいた。

「えっ?」

 目を大きく見開きキョトンとしてる私を見て、近江君はいたずらっぽく笑みを浮かべた。

「どこ行くんだ?」

「ちょっとそこまで……」

「食後の散歩中か?」

「そ、そうかな」

 自分でもどう答えていいかわからないので、曖昧に返すしかなかった。

「だったら一緒に図書室行かないか」

 近江君は私の返事を待たずに、さっさと先を歩き出した。

 私が戸惑っていると、再び振り返って顎で指図する。

 その仕草はちょっと乱暴ぽかった。

 私は圧倒されるままに結局はついていった。

 図書室に来るのは初めてだった。

 一階の校舎の一番端っこに広くその場所は取られていて、本棚がずらっと並んで、置いている本の数も多い。

 大きな本屋さんに負けないくらいに本が陳列されていた。

 大した本などないだろうとイメージ的に思っていたが、新刊のコーナーを不意にみれば私でも知っているような話題の本があった。

「遠山はどんな本を読むんだ」

「えっ? それは、漫画が多いかも」

 近江君はクスクス笑っていた。

「やっぱりお前は正直だな。ここで見栄をはって、今流行の本のタイトルでも言うかなって思ってたんだけどな」

「私、あまり本を読まないから」

「俺も実は去年まではそうだった。でも急に目覚めちまってさ、意地なって読み出したんだ」

 近江君は奥の本棚に進み、そこで読みたい本を探しだし、それを手にしてパラパラとページをめくった。

 周りには誰も人が居ず、本棚に挟まれた狭い場所で二人きりだった。

「近江君って休み時間いつも本を読んでるね」

「まあね。俺には時間があまりないからさ、休み時間でも利用しないとね」

「どんな本を読んでるの?」

「ん? まあ、色々さ。興味を持ったら片っ端から読むし、小説から参考書までありとあらゆるもの」

「それじゃ、近江君のお薦めは?」

「そうだね、これかな」

 近江君が棚から取り出した本は英単語集だった。

 私は何も言えなくて暫く沈黙した。