「そしたらさ、読むだけ読んで」

「嫌よ。封筒を開封するって事は気になるからって事になるんだよ。なんで中身を確認しなくっちゃだめなの。こういうのはきっぱりと返さないといけないの」

 これも正論だった。

 しかし私もつい意地になってしまい、また余計な事を口にしてしまう。

「だけど、ちょうどいいチャンスだと思わない? 彼氏にヤキモチ妬かせられるかも」

「千咲都! いい加減にして。そんな事したら、手紙をくれた人に益々隙を見せてしまうし、余計に勘違いさせてしまうじゃない。それに、そんな安っぽいこと本気で私がすると思う? 私、そういうことするの大嫌い」

 希莉はとうとう怒ってしまった。

「まあ、まあ、希莉落ち着いて」

 柚実が間に入ってこの状況を収拾しようと、希莉をなだめている。
 
 合間に私をチラ見して、困り果てた表情を向け呆れていた。

 私は希莉がここまで怒るとは思わず、しゅんとうな垂れて萎縮してしまった。

 それとは対照的に、机の上の汚れた手紙が妙に白く浮き上がって膨張しているように見えるようだった。

「ちょっと二人とも落ち着いて。希莉が怒るのもわかる。これは千咲都が責任持って返したほうがいい。だけどさ、千咲都が見知らぬ男性からこんな事頼まれてそれを引き受けるなんて、これもちょっと考えられないんだ。もしかして、何かあるんじゃないの?」

 柚実の的を射た指摘に私はドキッとしてしまった。

 柚実は冷静なこともあって、その真の問題を見抜いている。

 暫しの間が空き、二人は私をじっと見ていた。

 じろじろと見つめられ、私の目は焦点を合わさず揺れ動く。

 辛抱強く私からの答えを待ってる二人を前に、私はおどおどとするだけだった。

 居心地が悪く、針の筵(むしろ)に座っているような状態。

 私はこの場を丸く納めるために簡単に謝ってしまう。

「ごめん、本当にごめん。私が悪いんだ」

 ひたすら謝るが、それが希莉には気に食わず、一層火に油を注いでしまった。

「千咲都はいつも謝ってばっかり」