机の上に置いたままの手紙が私の視界にわざとらしいほど飛び込んできた。

 手紙の染みも、まるでどくろのマークのように浮き上がって見えてくるようだった。

 嫌な予感に胃が痛くなる思いだった。


 その次の日の朝、出かけるとき、ブンジが何事もなくソファーで丸くなって寝ていた。

 その時のブンジの姿が健気で、この上なく罪悪感に苛まれてしまう。

 昨晩ブンジに八つ当たりしたことが後ろめたく、いつものようにブンジに触れることができなかった。

 毎朝必ずブンジに「行ってきます」と撫ぜてるのに、この日はそれをせずに静かに家を出た。

 外にでれば、見るだけで気が滅入る暗澹とした雨模様。

 憂鬱に傘を差し、肩にカバンを掛けなおしたこの時、汚れた手紙がとても重く感じられた。

 早くこの面倒ごとを終わらせたい。

 まっすぐ前を見て堂々と歩くことができず、雨が打ちつけられるアスファルトばかりが視界に入り背中が丸まる。

 その側を自転車が通り過ぎ、少し凹んで雨水が溜まっていた部分を走っていった。

 その時ピチャッと水が跳ね返り、足に冷たい感触が伝わった。

 素知らぬ顔でそのまま進んでいく自転車が恨めしかった。

 いや、問題を全く気にしないでスイスイと逃げおおせたことが羨ましくてたまらなかった。

 朝から大きな溜息をつき、私は学校へと向かう。

 顔を上げれば、暗く垂れ込めた空からの雨は止みそうにもなかった。

 それはこの先の災難が降り注ぐ暗示のように、何か不吉なものを感じさせた。