「この子はチサトちゃんっていって、ハルの友達なんだって」

「いえ、その、友達って訳じゃないんですけど」

 手のひらをひらひらとして私は否定した。

「へぇ、ハルの友達か。ふーん」

「いや、だからその、同じクラスなだけで、友達では……」

 私が否定しているのに、聞いてる様子はなかった。

「それで、ハルはちゃんとクラスに馴染んでるのか」

「えっ、その、それは」

 いつも一人でボッチだとは言えない。

「まあいいけどさ、それより出渕がなんか迷惑掛けてんじゃないのか。なんだか怖がってるみたいだけど」

 もちろんそうなんですけど、出渕先輩の顔を見ると何も言うなと首を横に振っていた。

 私は返答に困って黙りながら、草壁先輩の顔を見つめた。

 良く見れば、髪の色が少し抜けて赤茶色い。

 モデル並みのすらりとした長身で、精悍な顔つきだった。

 出渕先輩ががっしりとした体格で、顔もゴリラ系統だから、二人一緒に並ぶと余計に引き立ってかっこよく見える。

「とにかくだ、もし、出渕に変なことされたら、いつでもこの俺に言ってくれ。コイツ、ガサツだから自分では気がついてないけど、結構失礼なことするしな」

 やっぱり、この出渕先輩はいじめっ子の素質があると納得してしまう。

 これだけ体ががっしりとしてたら、格闘技でもやってそうで、強く見える。

 草壁先輩は顔もいいけど、性格もよさそう。

 もしかしたら、話のわかる人かもしれない。

 万が一の時は、出渕先輩を懲らしめてくれそうな気がした。

 草壁先輩の爽やかな笑顔が、物腰柔らかそうに、すごく親しみを感じる。

 安心感を感じた時、つい頼れそうに思って少しだけ詳しい情報が欲しくなった。

 万が一の時のために。

「あの、草壁先輩」

「ん?」

「クラスは何組ですか」

「二年五組だけど」

 ゴリラ、じゃなかった、出渕先輩とはクラスが違うんだ。

「皆さんお友達なんですか」

「まあな、結構気の合う仲間かな。そんな事聞いてどうしたんだい?」

「いえ、別に。とにかくどうぞ宜しくお願いします。それじゃ私は急ぎますので失礼します」

 何を宜しくするのかわからないけど、勢いで頭を下げた。

 そしてその後は逃げるように駅の中に入っていった。

 いきなりな展開と、急激に走ったことで私の心臓はドキドキと激しく高鳴っていた。

 やっと一人になって落ち着いた時、一息つけることに安堵した。

 だが、出渕先輩から預かった白い封筒を見るや否や、それが不安の響きを再びもたらす。

「まだまだ問題が続く。えらいことになっちゃったな」

 これを希莉に渡す時が怖かった。