そう思ったのも、この時、職員室から知らない先生がでてきて、近江君に話しかけたからだった。

「よっ、近江じゃないか」

「あっ、江坂先生」

「この間の中間テストの成績聞いたけど、学年の中で十位以内に入ったそうじゃないか」

「一番じゃなかったのが残念ですけどね」

「おいおい、そんな高見を目指してるのか。すごいな、お前」

「そうだ、先生、あの話なんですけど、ちょうどよかった。今話せますか」

「おっ、いいぞ」

 近江君は私に振り返った。

「遠山、それじゃ、またな」

 さっさと別れを告げると、近江君は先生とどこかへ行ってしまった。

 私は暫く、去っていく近江君の後姿を見ていたけど、いつまでもこうしてもられないので、一人で帰路についた。 

 頭の中で、色んなことがぐるぐると回っている。

 回りすぎてごちゃごちゃになる程困惑しきっていた。

 近江君がいつも一人でいる理由。

 私にだけは声を掛けてくる理由。

 上級生から脅された理由。

 物静かなのに実際は底抜けに明るいギャップの理由。

 それらの理由は一体何なのか。

 何もかもが近江君の存在を謎に変えてしまう。

 私は、すでに首を突っ込んでそれに巻き込まれ、一人で踊らされているような気分だった。

 なんだか癪にもさわるし、それで居て近江君の事が気になるし、悶々としてずっとそれに気を取られてしまって、上の空に歩いていた。

 気がつけば知らない間に駅に辿り着いていて、時空を飛び越えた気分になっていた。

 そんなぼーっとしていた時に「おいっ、そこの女子高生!」という声が聞こえても、自分の事とは思わず、ぼけっとしていた。

「おい、無視するなよ」

 太い声が耳元で大きく聞こえると共に、その瞬間いきなり肩を捉まれ私はこの上なく「キャッ」と驚いて飛び跳ねた。

 その後すぐ条件反射で振り返れば、目の前の光景にさらに戦慄し、顔を青ざめた。