体はその気持ちに反応して、近江君の袖を無意識に引っ張って歩いていた。

「お、おい、遠山、な、何なんだよ……」

 私がぎこちなく体を突っ張らせてスタスタと歩く後ろで、近江君がよたよたしながら、引っ張られるままについて来ている。

「ハル、このまま諦めると思うなよ」

 上級生の男子生徒が、後ろで叫んでいる。

 追いかけて来ないのでとりあえずは助かったみたいだった。

 それでも私はまだ怖くて、そのまま近江君を引っ張って、安全な場所である、先生が一杯居る職員室に向かっていた。

「お前、どこまで俺を引っ張っていくつもりだ。職員室の前に連れてきたけど、本当に先生が俺を探してたのか?」

「えっ?」

 ここでやっと呪縛が解けたように立ち止まった。

 振り返れば近江君が訝しげに私を見ている。

 それが怒っているようにも見えて怖かった。

「ご、ごめんなさい」

 思わず条件反射で頭を下げて謝ってしまった。

「はっ? 何を謝ってんだよ」

「う、嘘なの」

 私は小さな子供のように叱られるのを恐れながら、上目遣いに様子を伺った。

 近江君はふーと一息ついて、鼻で笑った。

「やっぱりな。で、なんでそんな嘘をついたんだよ」