そして、遠くからこちらに向かってきているバイクのエンジン音が、私の耳にも次第に入り、その音がどんどん大きくなってきた。


 こっちに向かってやってきていると思ったとき、自分の家の前で止まったかのように、待機するエンジン音が低く暫く聞こえた。
 

 その時、ブンジはその音が気になるのか、むくっと起き上がり、ソファーの背の部分に飛び上がった。

 ソファーの後は壁際だが、そこに出窓もある。


 その出窓の部分がブンジのお気に入りの場所であり、またよくそこに座ってはエンターテイメントとして外を眺める最高の特等席になっていた。


 この時はカーテンが引いてあったが、その隙間を潜って、ブンジは出窓の部分に飛び乗った。


 バイク音はとても間近に聞こえたので、私も気になってカーテンを少し開けて外を見てみた。

 窓のすぐ外は住宅街の通りに面している。


 そっと覗けば、弱々しい街灯に照らされて、バイクとそれに乗った人のシルエットが浮かび上がっていた。

 まだ日の出の気配も感じさせない、肌寒そうな暗闇の中で、そのバイクに乗った人は、何かをその先にある私の家の玄関先に向かって放り投げた。


 作業が終わっても暫くバイクの人がすぐには動かなかったところをみると、こっちを見ていたのかもしれない。


 そっと覗き見してると思っていたが、家の中の光が窓から漏れて、暗闇から私は丸見えだったことに気がつき、思わずはっとして奥に引っ込んだ。


 その後、バイクの音が小さくなり遠くに行った様子が伺えた。


 もう一度外を覗けば、静かな闇だけが残っていた。