「全然、想像できない」

「昨年事件に巻き込まれて、大怪我したことがあってね、多分あれがきっかけで、変わったのかも。だけど、その方がより一層魅力的になったと思う。すごくしっかりして、男らしくなった。そういえば、近江君、あなたの事守ってたわね」

「守ってた?」

「うん、以前、私があなたに絡んでたとき、ほら電話が掛かってきたでしょ。あれ、近江君よ。あなたを守ろうとして私を脅してきたわ。なんでもあの時、近くにいたそうよ」

 その時の事を振り返れば、側をバイクが走っていたのを思い出し、あれが近江君だったと気がつくと自然と笑みがこぼれていた。

「近江君、戻ってくる時は金髪の彼女ができてるかもね」

「えっ!」

「意地悪言うわけじゃないけど、近江君、手が早いわよ」

 私の顔に翳りが出たのをみた常盤さんは、クスッと笑い、そして優しく付け加えた。

「あなたが、近江君を惹き付けられるように魅力的になればいいだけじゃない」

 ふと、視線を感じてそちらを見れば、雑居ビルの間の路地からキジトラの猫が顔を出していた。

 色は違うけどなんとなくブンジに似ていた。

 私と目が合って警戒し、微動だにせず用心深く見ている。

 私は目をぎゅっと瞑ると、その猫は呪縛から解き放たれたようにいきなり体を舐め出して毛づくろいを始めた。

 私も同じように、心配ばかりせず、まずは自分を磨かなければと思った。

 その一年後の未来、私は近江君と同じ目的地に辿り着いている事を切に願った。