「やっぱり親子かしら、好きになる人の趣味が一緒。真面目で、一生懸命で、素直で…… そういう人に惹かれちゃうのよね。そうだわ、一つ助言してあげる。 昔からあの子に教えてるんだけど、人生で大切な人に出会う時、必ず何かのサインがあるってね。そういうサインを感じて人を見つけた時は、早めに唾をつけなさいって言ってるの。そして絶対に離しちゃだめってね」

「でも、近江君は待つなって……」

「ハルも、あなたもまだ子供なだけ。あなただってこの先何があるかわからないわよ。だけど、本当に二人が望んで同じ道を進もうとするのなら、そこに必ず道しるべが現われる。その道しるべの先の将来を二人がどんな風に見るかってことが大事なの。迷わずにそこを目指して進みなさい。あなたがそこを目指せば、ハルもきっと目指すはずだわ。ハルがいいたかったのは、それまで束縛されずに自分のしたい事をしろってことよ。だって同じ道を進んでいたら、その先は迷うはずがないでしょ」

 なんだかよくわからなかったけど、でもなんかわかったような気がする。

 道しるべに沿って同じ道を進む。

 その道しるべって、もしかしたらブンジの事だったのかもしれない。

 ブンジが出窓に立って、近江君を導いた。

 そして私も導かれた。

 ブンジが道しるべ。

 これが近江君のお母さんがいうサインのことだとしたら……


「あ、あの、ありがとうございます。私もこの一年、近江君に負けないように頑張ります」

 近江君のお母さんは、全てを見通した観音様のように穏やかに笑っていた。

 そこに近江君の面影を私は見ていた。