「俺、そんな話知らないよ。ハルの奴、訊いてもいつ出発か言わなかったんだ。よっぽど見送りに来て欲しくないみたいだった」

 近江君はわざと嘘をついたってこと?

「近江君も来週の日曜日に櫻井先輩と一緒にアメリカいくんですか?」

「ううん、私達、出発はバラバラよ。近江君はすぐにでも現地に行って英語に慣れたいって言ってたわ。だから、出発は今日のはずよ」

「今日……」

 一瞬私は呆然としてしまった。

 私が訊いた時はすでに旅立つ覚悟をしていた。

 それなのに誤魔化すだけでどうして教えてくれなかったのだろう。

 また心の中で悲しみがぶつかり合う。

「あの、今日の何時ですか」

「正確にはわからないけど、夕方5時頃じゃないかしら。私もその時間帯の飛行機なの」

「今から空港に行けば見送り間に合うかも」

 私は声に出して呟いていた。

「何、千咲都ちゃん、ハルの見送りに行くのかい?」

 なぜだか私は行かなければならないように思えた。

 切羽詰った顔をして草壁先輩に頷いた。
 
 草壁先輩は何かを悟ったように、微笑んだ。