どうしたもこうしたもないはずだ。

 私が目の前に現れたという事はどういう意味か近江君だってわかってるはずだ。

 そんな態度を取られるのも辛い。

 泣くのも必死に堪えているから、低く篭った声が出てしまった。


「いつ出発なの? 見送りに行く」

「いいよ、別に、どうせまた戻ってくるんだから。一年なんてあっと言う間さ。今から、一年しかないって焦ってるくらいなのに」

「でも見送りに行きたい」

「だけど、その日、サッカーの試合がある日だぜ」

「えっ、そんな」

「草壁が同じ事言ってきてさ、残念だって嘆いてた」

「雨降ればいいのに」

「おいおい、それも困るぞ。飛行機乗る時はいい天候で乗りたい」

「近江君、時々メールくれる?」

「んー、そんな時間あるかな」

 建前だけでもOKって言って欲しかった。

 でも嘘をつくのも嫌だったのだろう。

 首尾一貫して貫き通すところは近江君らしい。


「休み時間も勉強に費やすもんね。時間があれば勉強か」

「だって、言葉が違うんだぜ、それだけでハンディは大きい。いきなり英語で勉強だから、本を読むのも大変だ」

「話を聞いてるだけで、なんだかこっちが疲れてきちゃう」

「ははは、仕方ないさ。それより、遠山もしっかり頑張れよ。勉強にも、遊びにも」

「勉強ばかりするような近江君に、遊びを頑張れっていわれてもね」

「俺はすでに遊びも充分やったからね。だから胸張って言えるってもんだ。草壁と楽しんだらいいじゃないか。お前達お似合いだぞ」

 その時私の顔は強張った。

 近江君からそんな事を言われるとは思わなかった。


「どうしてそんな事平気で言えるの」

「どうしてって、色々と経験を積んでおくのもいいと思うんだけど」