近江君の口許が微かに動いたが、その後、気まずそうに「何でもない」とお茶を濁した。

 何を言おうとしていたのだろう。
 
 また中途半端にチャイムに邪魔をされて、私も聞き返すチャンスを奪われてしまった。

 近江君は教科書に目を落としたので、私はそっとして自分の席に戻った。

 希莉と柚実がそれぞれ私を見てたので、顔を合わせれば、冷やかすような笑みが添えられた。

 私は「放っておいて」と意地の悪い顔を作って見せたけど、素直に感情を表せることに心地よさを感じてもいた。

 外は今までの曇り空が、シールをはがしたようにきれいになくなって、見事な青空が広がっている。

 梅雨明け宣言をしてもいいくらいの天気だった。

 私の心も同じようにすっきりとして、これで来週から始まる期末テストに集中できそうだった。

 やっと色んな意味の長い梅雨が明けて嬉しかったけど、次、夏が来ることを私は手放しで喜べなかった。