「大丈夫だって。柚実がいないと困るもん。ね、希莉」

「うん」

「そっか、私がいないとやっぱり困るか。そうだと思った」

 柚実はわだかまりがなくなって笑顔になっている私と希莉を見て、楽しそうにしていた。

 
 私が一歩前に踏み出すだけでよかった。

 希莉も柚実も私を待っていてくれた。


「昨日は荒れてて、八つ当たってごめんね」

 私はブンジが死んだことを説明した。

 二人は私の気持ちを察して、しんみりとしていた。


「それともう一つ二人に聞いてほしい話があるんだ」

 私がモジモジとしながら、恥かしがると、柚実はピンときたみたいだった。

「もしかして、近江君の話?」

「えっ、なんでわかったの」

「そんなの前からわかってたよ。よしよし、お姉さんがしっかりと聞いてあげるからね」

 柚実のニヤニヤした笑みに、恥かしさが込み上げてくる。

「千咲都、噂をすればなんとやら。彼が来たよ」

 希莉に肘鉄で知らされた。

「彼もこっち見てるじゃない。とりあえず挨拶してきたら」

 柚実に肩を押され、私は戸惑いつつも、近江君に近づいた。


「近江君、昨日はありがとう。それと父が失礼なこと言ってごめんなさい。あの後父も反省してた」

「なんだよ、改まって。別に気にしてねーよ。それより、俺、英語ヤバイんだ。遠山はいいよな。英語ができる父親がいて。俺羨ましいよ」

 近江君は英語の教科書を出して単語をぶつぶつ言い出した。

 私は邪魔になってはいけないと、そっと離れようとしたとき近江君がボソッと言った。

「毎朝、早く起きるのが辛かった。でもブンジがいつもあそこで俺を待ってるような気がして、頑張れた。そしてある日、濡れた髪の女の子がブンジと現われたのを見ちまったんだ。まさかその女の子と同じ教室で一緒になるとは思わなかった。それから気になって遠山の事見ちまったんだ」

 近江君はずっと前からブンジを知っていた。

 今思えば、いろんなことが意味を成して辻褄が合ってくる。

「遠山……」

 近江君が何か話したそうに顔を上げた。