「お父さん、やめてよ。近江君、ごめん」

「いいんだよ。こんなことした俺が悪いんだから」

 近江君は潔く非難を受け入れるも、後悔はしてないすっきりした気持ちで笑っていた。

 そしてヘルメットを再び装着し、バイクに跨った。

「それじゃ失礼します」

「近江君!」

 バイクのエンジン音が響き、近江君はすぐさま走り去っていく。

 あっと言う間にその姿は小さくなっていった。

 もう少し近江君と一緒にいたかった。

 そんな未練が残るまま、近江君が去っていった方向を暫く見つめていた。

 父はそれも許さないと私を無理やり家に引っ張っていく。

「早く家に入りなさい」

「放っておいてよ」

 抵抗していたその時、持っていたヘルメットが手から零れ落ちた。

 ハッとして慌ててそれを拾い上げ、私はしっかりと抱き締め、自ら家に入っていった。

 父はその様子に不安と心配さを兼ねた悲しげな表情をしていた。
 

 家の中に入れば、父と母にすぐさま説教された。

 私の帰りが遅いので、何かあったんじゃないかと心配したと何度も強く言う。

 ブンジが死んでショックを受けてるから、特にその心配が強まっていたところに、バイクの派手なエンジン音が家の前で聞こえ、何事かと出てみたらヘルメットを被った私が居たから驚いたらしい。

 真っ向からバイクを否定し、高校生があんな危険な乗り物に乗るのは不良だと決め付けるから、私も頭にきた。


「近江君は自分の意見を持ったしっかりした人よ。勉強だって人一倍努力して、そしてテストで一番を取ったりする人なんだから。バイクに乗ってるだけで不良だなんて決め付けないで」

「何言ってるんだ。無事に帰ってきたからいいけど、もし事故に遭ってたらああいう乗り物は簡単に命を落とすんだぞ」

「でも、事故に遭わなかったからいいじゃない。近江君の前であんな態度取るほうが失礼だわ。近江君は私が困っている時、いつも助けてくれた人なの。私が毎日学校に行けたのも近江君が影で私を元気付けてくれたからなんだから。そんな恩人に、見た目で不良だなんて決め付けないでよ。近江君の事よく知りもしないくせに」

 私が怒鳴ると、架が私達の間に入ってきた。手には白い骨袋を持っていた。


「ブンジが死んで間もないのに、親子喧嘩するなよ」

「これ、ブンジの骨壷が入ってるの?」

「そうだよ」