どれくらいバイクは走っていたのだろうか。

 長かったようでもあっと言う間でもあった。

 次第にスピードが落ち、そしてとうとう停まったとき、私はやっと周りを見る余裕ができた。

 見覚えがある住宅街の中、目の前には出窓がある家。

 見たことあると思った時、その家の玄関から、父と母が慌てて飛び出してきて、益々混乱した。

 まさにここは自分の家だった。


 バイクから降り、ヘルメットを脱いだ瞬間「千咲都!」と名前を強く呼ばれた。

「き、君は一体誰だね。どうして娘とバイクに乗ってるんだ」

 取り乱した自分の父の姿を見たのは初めてかもしれない。

 またその態度がドラマでよくある父親像だったから、私はある意味びっくりして本当の自分の父かと疑ったくらいだった。

 近江君はバイクから降り、ヘルメットを脱いで深々と頭を下げた。


「すみません。二度ともうしません」

「近江君、謝らなくてもいい、私が勝手に乗せてもらったんだから」

「千咲都、早く家に入りなさい」

 母も取り乱していた。


「ちょっと何も心配することないわ。近江君は私を助けてくれたんだから」

 父と母の失礼な態度に私の方が恥かしくなった。


「いいんだよ、親としたら当たり前だ」

「だけど無事に運転してくれたわ。とても気持ちよくて快適だった。お蔭で心が癒えたもん。近江君には感謝してる。だけどなぜ私の家がわかったの?」

 近江君がその質問に答えようとしているその時、父が勢いよく門を開けて飛び出し、無理やり私の腕を取って引き寄せる。

「お父さん、ちょっと引っ張らないでよ」

「千咲都が、なんでこんな不良とバイクなんかに」

「お父さん、それは失礼よ。近江君はクラスでもトップクラスの成績で優等生なんだから」

「いいから、早く家に入りなさい。悪いけど君、今後うちの娘とは付き合わないで欲しい」

 これまたお決まりの捨て台詞を吐いて、私を無理に家の中に引っ張っていく。