「いいかい、俺が動く通りに体を委ねて欲しい。しっかりと俺に捉まっていたら大丈夫だから、絶対その手は離すな」

「わかった」

 近江君がヘルメットを装着する。

 私もそれに見習って被った。

 バイクは比較的新しく光沢を帯びてかっこよかった。

 そのスマートな機械的なフォームが、よく知らない私の目にも魅力的に映った。

 近江君は引っ張り出して、それに跨る。

 わたしも持っていた鞄を背中におぶるように提げて、近江君の後ろに座った。

 そして遠慮なく思いっきり近江君の背中に持たれて、がっしりと抱きついた。


「それでいい」

 近江君はしっかり掴んだ私の手を上からポンポンと叩いていた。

「それじゃ行くぞ。怖がるなよ」

「わかった」

 口ではそういったものの、私は思わず目をぎゅっと瞑ってしまう。


 そしてバイクが動き出すと同時に、体に重く圧し掛かる重力を感じた。

 怖くないって言えば嘘になるけど、その反面、近江君にしっかり抱きついて、ドキドキするのが快感でもあった。


 風を強く感じ、エンジンの奮えが体の中にまで響く。

 自分自身が発射されたロケットのようだと思った。

 近江君はブンジの弔いと称したけど、なんとなくいいたい事がわかったような気がした。

 悲しみに自棄になって力強く気持ちをぶつけるには、バイクで飛ばすのはもってこいのような気がする。

 ブンジが居なくなった世界。

 でも自分は生きて、まだこの世に存在しているのがリスクと隣り合わせに感じてくる。

 生と死の境目に自分はいるような気分だった。


 近江君は生きてることを私に感じさせ、そこでしっかり前を見ろと示唆してるのかもしれない。

 かつて辛酸を舐めた近江君だからこそ、近江君の気持ちが背中から伝わってくるようだった。

 そしてその背中はまるで緩衝材のように私の悲しみを軽減する。

 近江君の背中。

 この瞬間だけは私のものだった。