近江君から手渡された物は頭と顔をすっぽり包み込むバイクのヘルメットだった。

 それを持ってマンションの裏手に回れば、駐車場のスペースがあった。

 一角だけ簡単な屋根がついた、自転車が置けるスペースがあり、そこに一際目立って、黒っぽいバイクが隅っこに置かれていた。

 近江君は16歳になってすぐに普通二輪免許を取ったそうだ。

 留年しなければ高校二年の17歳だけど免許を取ってまだ間もないその年月に不安がよぎり、ヘルメットを抱える手が震えて落としそうになってしまった。

 慌ててしっかりと抱えなおし引き攣った笑みを見せたが、近江君も私が怯んだ一瞬のしぐさを敏感に感じ、「参ったな」と苦笑いしていた。

「俺は無理強いはしない。嫌なら乗らなくていい」

 バイクは普通一人で楽しむもので、人を後ろに乗せる時はその人の命を預かって運転するものだとその心得を説明し、リスクは充分理解した上で、私に決めて欲しいと言う。

 生半可にやってることじゃないと、真剣に私を見ていた。

「俺は必ず安全に運転する」

 力強く誓う近江君の瞳が、深く私を捉えて男らしかった。

 私は体の芯から湧き起るやる気に身震いし、力強く頷いた。

 近江君と一蓮托生にバイクに乗りたいと思ったのだ。