気まぐれで気高い真っ白な猫だったらしく、それを聞いて、母は自分の鞄につけていたキーホルダーに気がついた。

 父は母のキーホルダーの白い猫が、実家の猫に見え、何かのサインと思って、ここでこの子を助けないと行けないってそう感じたらしい。


 なんとも不思議な縁だと思って、母は将来この人と結婚したいってピピピって反応した。

 だけど父の事を知ったら、有名な頭のいい大学の生徒で、自分とは釣り合わないって思った。

 でも母は諦めずにそれから勉強するんだけど、元々頭がいいって訳じゃないから、勉強しても知れていた。


 その間に父は大学を卒業して就職した。

 母は追いつきたいと何かスキルを身につけてのし上がろうと必死になってたんだけど、父はお見合いで結婚してしまって、夢叶わずで終わってしまった。

 母がその父の結婚相手を見て思ったのが、自分には敵わないおしとやかさと控えめさを持ち合わせ、父が選びそうな女性像そのものだったらしい。

 母はどうしても父の事が忘れられなかった。

 唯一その時自分ができたことは、真面目になっていい仕事につくことが、あの時助けてもらった恩返しだと思い、大学で経済学を学び、ひたすら頑張った。

 だけど卒業しても就職が中々できず、やっと入ったところもセクハラや雰囲気の悪いところだった。

 一生懸命頑張ってもこんなところにしか就職できないと悲観的になって、手っ取り早く稼げる仕事に転職した。

 それが水商売だった。


 だけど母は割りと器量良く、経済の事を学んだだけ、企業のトップ達とは話が合った。

 そこから母は二度目の目覚めが来て、ここでトップになろうと頑張ったんだ。

 そしてさらに色んな事を勉強し、たまたま知っていた事をアドバイスしたらそれが役に立って、自分の客が次々出世して行った。

 そこで母に会えば出世するといういい噂が流れて、どんどん人脈も広がり、母はのし上がって行ったんだ。


 なんか話がいろいろと飛び出て、聞くのが辛くないか? 

 えっ、面白いからもっと聞きたいって? 

 そうかい、それならいいけど、ここはどうしても端折れないところで、この後が俺の誕生にも重要な話なんだ。


 母は実力を買われ、店を任され、最後は独立して自分の店を持つまでになったんだけど、その途中で、母の噂を聞いてやってきたのが、父だった。

 父は年は取ったけど、初めて会った時のままで、真面目な人だった。

 だから、実際こんなところに来るような人じゃないのは分かってたから、きっと仕事上の悩みがあって、母のアドバイスで改善する噂を聞いてやってきたに違いないと思った。

 案の定、父はリストラ対象候補に持ち上がってたらしく、すでに会社で酷い扱いを受けていた。

 だが、どうしても仕事を失うわけには行かず、娘も私立の中学に通ったところでお金が入用だった。

 藁をも掴む思いでやってきたら、見覚えがあるからすごくびっくりして、そして立派になってと感激して涙を流して喜んだそうだった。

 やはりいつでも純粋な人だと母の方が邂逅に喜び、この時のために自分は頑張ってきたと悟ったんだ。

 そこで母は、過去に助けて貰った恩返しをしたいと申し出て、人脈を通じてコネを作り父の仕事の世話を難なくやってのけた。

 父は母に感謝し、お礼がしたいと言ったとき、母は閃いた。

 それが父との子を儲けることだった。

 しかし、あまりにも露骨なお願いはやっぱり言い出しにくくて、嘘をついたんだ。

 自分の知り合いのクリニックで高学歴を持つ男性の精子ドナーを探していると。

 普通なら、おかしな話だと思うところだけど、父は母の頼みとあって、承諾した。

 それくらい父は自分が助けられたと思って感謝してたんだ。

 父はとにかくまっすぐで疑うことをしない、くそ真面目な人だったらしい。