近江君はキッチンカウンターに戻り、何やらごそごそしてから、グラスを手にして私に差し出した。

「ほら、これを飲めば気持ちがすっきりするぜ。心配するな、ノンアルコールだ」

 それはしゅわっとした炭酸の泡に包まれた赤いソーダだった。

 レモンの輪切りもちゃんと添えてあった。

「シャーリーテンプルっていうんだ。未成年用のカクテルさ」

 私はそれを手にして、一口飲んだ。

 レモンソーダに甘みが少し加わった爽やかな味だった。

「美味しい」

「だろ」

 近江君は私の隣に腰掛け、得意げに笑っていた。

 無邪気に笑っている近江君を見つめていると近江くんという人物をもっと知りたくなってくる。

 気持ちが落ち着いた私はもう一口ソーダを飲んでから、ゆっくりと口を開いた。

「ねぇ、近江君はどうして留年したの?」

「いきなりそれかよ。まあ、いいけどな。遠山には俺の事話した方がいいな。でもそれを聞いたら、遠山は俺を見る目が変わるぞ。それでもいいのか」

「何を聞いたところで、近江君は近江君だから、私は気にしない」

「そうか。だったら、長い話になるぜ。覚悟しな」

 私は聞きたいとばかりに真剣に近江君と向き合った。


 近江君は何から話せばいいのか迷いながら、最初の言葉を探していた。

 ここからは近江君の独白となる。