「俺も辛いよ。ブンジはいい猫だった。俺にとってもな。ブンジを通じて遠山と親しくなれたもんな」

「近江君……」

 私はこの時やっと気がついた。

 近江君が好きだってことに。

 でもそんな気持ちを抱いても遅かった。

 近江君はこの夏、櫻井さんと一緒に留学してしまう。

 そして櫻井さんは近江君がずっと好き。

 あんな綺麗な人と慣れない異国にいたら、新密度も深まるだろう。

 櫻井さんがちょっと積極的になれば、どんな男もコロッと行ってしまいそうだし、あの草壁先輩だって一緒にしゃべってるだけで好きになってしまったと言っていたくらいだった。

 どうする事もできない悔しいばかりの思いが体から溢れてしまった。


「おいおい、そんなにしがみついたら苦しいじゃないか。まあ、首絞められるよりはいいけどな」

 今度は違う意味で私は近江君に抱きついていた。

 近江君は嫌がることなくいつまでも私のしたいままにさせてくれた。

 どれくらいしがみついていたのだろうか。

 泣き疲れた私は近江君から体を離した。

 泣いた顔を見られるのが恥かしくて、俯いていたら、どこからか近江君がティッシュペーパーの箱を持ってきて差し出した。

 「ありがとう」と一枚抜き取った。

「適当に座れ」

 コクリと頷いてから、居間のソファーに浅く腰を掛けた。