私は首を横に何度も振り、近江君が考えていることを望んでないと悲壮な表情で訴えた。

 近江君は微動だにせず、私の腕を強く掴んだままだった。

 近江君の掴む私の腕が熱を持って痛い。

 物音しない静かな部屋。

 ベランダに続く吐き出し窓から覗く曇り空は垂れ込めて灰色の世界に染め上げる。

 これと同じように、音も色も消し去る虚無感と自分の心は同じものであった。

 でも今は壊れていくことに恐れを感じた。

 私は諦めるように力尽きて、近江君から目を逸らした。

 その直後、捉まれていた腕が自由になり、近江君は私を解放した。

 再び見上げた時、近江君の顔が弛緩し安堵している。

 いつもの近江君が笑ってそこにいた。

「いいか、悲しい時、辛い時、自棄になったら人間は馬鹿なことをしでかす。その感情に飲まれたら思考判断が効かなくなってどうでもいいって思っちまう。でもな、そんな感情に飲み込まれるな。悲しみは時間が経てば必ず和らいでいく。一時の感情に流されて自分を見失うな。ブンジはそんな事願ってないぞ」

 その言葉が琴線に触れ、私は恥も外聞もなく、声を上げて泣いてしまった。

「思いっきり泣けばいい。遠山が今必要なのは俺だ」

 私は近江君に抱きついた。

 そして必死にしがみ付いて泣きじゃくった。