「ちょっと待ってよ、お酒なんて飲める訳ないでしょ」

「自分が壊れるにはアルコールが一番手っ取りばやい方法さ」

「そうだとしても、未成年が自棄酒飲めるはずがないでしょ。そこまでしたくないわ」

「なんだよ。つまんねぇな。遠山の壊れっぷり見たかったのに」

「一体何を考えてるの?」

「もちろん、ブンジの弔いさ。派手に送ってやればいいじゃないか。俺、協力するっていっただろ」

 近江君がじわりじわりと私に近づいてきた。


 そのとき、いつもの勉強を真面目にしている近江君じゃなかった。

 妙に世間を知ったような貫禄があって、目つきも動物が獲物を狙うような鋭さがあった。

 私は知らずと後ずさりする。

「近江君?」

 ずっと強気で突っ慳貪(けんどん)だった私が一瞬にして気弱になる。

 今のこの状況を例えていうなら、狼が羊をねらっているという比喩がとてもしっくりきた。


「悲しみで自棄になって、全てを壊したいんだろ。自分も壊れたいんだろ。何もかも嫌になったんだろ」

「だからって、何をするつもりなの?」

 近江君にまた腕を取られ、強く引っ張られて私は無理やり引き寄せられる。


「俺がめちゃくちゃにしてやろうか。それで、気が済むんだろ」

「えっ」

「どうした、何を怖がってるんだよ。さっきまで全てがどうでもよくなったって言ってただろ。だったら、壊れろよ。とことん自分を壊してみろよ。俺がお前を思う存分抱いてやるよ」

 頭の中がパニックになって、足が急に震えだした。