運転席を見れば、初老の男性が振り向きざまに軽く頭を下げた。

 人がよさそうに笑っている。

 私もまたすぐさま頭を下げ、訳も分からずその車に乗り込み、ドアを閉めた。


「ぼっちゃん、お友達が一緒だなんて、珍しいですね。しかもかわいらしいお嬢さんだ。どこへ行くんですか」

「三井さん、そんなんじゃないんですって」

「それじゃいつもの場所でいいんですね」

「はい、お願いします」

 三井と呼ばれた運転手は、辺りを確認してから車を走らせた。

 私はまだこの状況が把握し切れてない。

 近江君がぼっちゃんと呼ばれ、お抱え運転手が送り迎えをしている?

 近江君は一体何者なんだろう。

 近江君は車の中で何も言わずにいたので、私も大人しく黙っていた。


 車は十分も走らないままに目的地に着いた。

 そこは住宅街に位置し、普通にマンションが建ってるだけで、別に特別な場所ではなかった。

 エントランスの前で車を降り、運転手の三井さんに軽く頭を下げると、三井さんの運転する車はそのままマンションの前で止まっていた。

 三井さんは私達を降ろした後、スマホを取り出し電話を掛けだした。

 私がきょとんとしてると、近江君はそのマンションの中へ入っていこうとする。