駅とは違う方向へ、私の腕を引っ張ったまま近江君は歩いていく。

「いい加減に離して」
 
私が強く振り払おうとする前に近江君はパッと手を離し、勢いが空振りになって前につんのめってしまった。


「まあ、落ち着け」

「落ち着いてもいられないの」

 よたつきながら、近江君に引っ張られていた手をもう片方の手で庇うように触れた。


「とにかく、こっちこい」

 近江君が入り組んだ路地を入って抜けた先で大通りに出くわした。

 車がひっきりなしに通っている。


 ビルがポツポツと建ち、周りは見通しがよく、都心へ向かう街の外れと言った雰囲気があった。

 街路樹が植えられた広い歩道のその横に、一台の黒いセダンの車が停まっているのが見えた。

 近江君はその車めがけて歩いていった。

 そして後ろのドアを開け、手招く。


「早く来い」

 近江君はさっさとその車に乗り込むので、私は小走りに掛けていった。


「ちょっと、どういうこと」

「いいから、早く乗れ」