その瞬間が来るまで、ブンジを寝かせ、私は側を離れなかった。

 それからブンジの息が乱れ、尻尾が怯えた時のようにぶわっと膨れ上がった。

 やがて瞳から光が消えると同時に、ブンジのおなかの動きも止まった。

 ブンジは二度と動くことはなかった。


「ブンジ!」

 皆が目を真っ赤にしてボロボロ泣いた。


 母は夕食の仕度をするのも忘れ突っ立ったままで、架は呆然としてソファに座っていた。

 ブンジが死んでしまうと同時に、尿が流れ出てきた。

 母はタオルを持ってきて、それを拭っていた。

 さっきまで生きていたブンジは、抜け殻となって目の輝きを失った。

 ブンジのまぶたを何度も擦り、目を閉じさせた。
 
 死んでしまったブンジを最後にもう一度抱きしめようと抱き上げた時、ブンジの体はだらっとして水のように流れていく。


 まだ柔らかくて温かいブンジの体に私は自分の顔をうずめた。

 太陽と草のようなブンジの匂いがしていた。



 父が帰ってきた時、ブンジの体は硬く冷たくなっていた。

 父もまた、涙を流して悲しんでいて、それを見ると、母も架も再び貰い泣きをしていた。

 私達にとっては家族だったブンジ。

 いつも側に居て、家の中を歩き回っていたのに、それがこの先見られなくなってしまった。

 誰もが悲しいと、この日はまさにお通夜で、ブンジの思い出に浸っては、家族でブンジを偲んでいた。

 梅雨という恨めしい天気のせいで、いつまでもブンジをこのまま寝かせて置く事もできず、明日母が火葬しにいくと言った。

 私も架も立会いたいと言っても、学校が優先と言われ悔しい思いを抱いた。

 学校なんて一日くらい行かなくてもいいのに、期末試験が近いからと母も父もそれは許さなかった。

 行ったところで、勉強に集中できる訳もないのに、世間ではペット優先にはできないものがあると、建前上そういうことになっているから理解しなさいと強制する。

 しかし、実際父も母も私の思うようにさせたかったのかもしれない。

 最後に、ごめんねと言った母の辛そうな顔が印象的だった。


 その晩はブンジを空箱に入れ、いつも陣取っていた居間のソファーの上に置いてやった。

 私はもう一度寝袋を用意して居間で、ブンジと夜を共にした。

 これが姿あるブンジとの最後の夜だった。