「チャンス……」

 近江君と一緒に留学できるチャンスだろうか。


「きっとこれが私の未来に影響を与えると思うと、私は選んでみたくなったの」

 前をしっかりと見ている櫻井さんの横顔はキリッとしていた。

 この人なら未来も近江君のハートもきっちり掴んでくることだろう。

 私は敵わないものを感じ、嫉妬心もあっけなくしぼんでいった。


「先輩、応援してます。先輩ならきっと明るい未来が待ってると思います」

「ありがとう、遠山さん。あなたも頑張ってね」

 私はコクリと頷いたが、櫻井さんに爽やかな笑顔を向けられると内心忸怩たる思いで後ろめたくなった。


 後ろの方で草壁先輩とその他の部員達が騒いでいる声が聞こえてくる。

 櫻井さんは後ろを振り返り、愛おしそうに見ていた。

 マネージャーを辞めてしまうことで感慨深いものがあるのだろう。


 だけど私は違った。

 同じように振り返って見た時、自分がここに所属する価値があるのだろうかと思ってしまった。

 一応無理して笑顔を作ったが、虚しかった。

 駅でみんなと別れ、それぞれの家路につくが、一人になったとき、空虚感がどっと押し寄せた。

 無意味に学校辞めたいなんて軽々しく思ってしまう。

 そんな勇気もないくせに、全てが投げやりに苦しさだけが表面に現われて、好き勝手に荒ぶっているような状態だった。


 そして最後にそんな私を懲らしめる止(とど)めが来てしまった。