「よっ、千咲都ちゃん。一人で寂しくない?」

「えっ?」

 考え事をしていた私は突然の草壁先輩の登場にすぐさま反応できなかった。


「あれ、どうしたの。今日は暗いね。いつも以上にぼんやりしてる」

 草壁先輩は椅子を持ち出して私の前に座り、私が磨いたサッカーボールを手にして弄びだした。


「あの、草壁先輩」

「ん、何?」

「近江君が留学すること、知ってますか?」

「ああ、知ってるよ。かなり前から決めてたみたいだったぜ」

「櫻井先輩の事も?」

「うん、もちろん。櫻井はハルを追いかけて留学するんだ」

「えっ?」

「櫻井は一年の時からずっとハルの事が好きだったみたいだし。それに気がついたから、俺はバカな行動してしまったけどね」

「櫻井さんは近江君が好き……」

 ボールを磨いていた手が止まった。


「ハルは女の扱い方に慣れてて、上手いんだ。あいつ、かなり女と付き合ってたからな」

「あの近江君が」

「だから、言っただろ、ハルに騙されるなって。あいつは色んな問題起こしてさ、一時手が付けられなかったんだ。それもハルばかりが悪いとはいえないんだけどね。そっか千咲都ちゃんもやっとハルから留学の話を聞いたのか。ハルも少しずつ話し出してるんだな」

「どうしてすぐに教えてくれなかったんだろう。留年の事だって」


「ハルは一々自分の事を人に話したくなかっただけさ。今のハルは臆病になってる。昔は向こう見ずで怖いもの知らずだったんだけどね」


「草壁先輩と近江君は親友なんですか」

「もちろん。大親友さ。ハルのいいところも悪いところも、俺は知ってるからね。唯一俺だけが、ハルの事なんでも言える」


「だけど、櫻井さんが親友の近江君を好きだと分かったとき辛くなかったですか」


「千咲都ちゃんの言いたいことはわかる。そりゃ、一時は悩んだけど、今は吹っ切れたし応援してやりたいって思う。だから昨日は櫻井とハルを会わせたのさ。 今迄の櫻井への罪滅ぼしと、ハルがどういう態度に出るか見てみたかった。ちょうどそこに千咲都ちゃんがあの時現われたという訳」

 タイミングがよかったのか、悪かったのか、はっきり言えるのは何も知らなかった私がバカだった。


「そうだったんですか。私やっぱり近江君の事知ってるようで知らなかったんですね」

「もしかして猫被ってたハルに幻滅した?」

「猫被ってた?」