私、いつからこんなに捻くれたんだろう。

 本当は頑張ってって言いたいのに、意地悪な気持ちの方がでてきてしまう。

 私も結局は常盤さんや加地さんと同じ側の人間だった。

 気に入らなかったら攻撃してしまう。

 二人の事、悪く言えない。

 今の私はすごく醜い人間だ。


「まあ、いいけどな。一年後を楽しみにしててくれ。俺、必ず英語を物にして帰ってくるから」

 近江君は私の意地悪を笑い飛ばしていた。

 そんな近江君の顔を見るのが辛くて私は白々しく腕時計を見た。

「教室に戻らなくっちゃ。遅れたら大変」

「そうか、まだ時間があるけど。俺は借りたい本があるからそれを借りてから戻るよ」

 私は、碌に近江君の顔も見ずに、踵を返して図書室を去っていった。

 なぜだか胸が詰まって苦しくて、それが圧迫して涙が目に押し上げてくる。

 泣きたくなんかないのに、目が潤んで目の前がぼやけていた。

 

 複雑な思いを抱いたまま、午後はすぐに去っていった。

 昼休み以来、近江君がいる方向に首が回らない。

 自ら壁を作って一人で気まずくなっているような状態だった。

 近江君は授業が全て終われば速やかに教室を去っていく。

 その瞬間の廊下へと出て行く近江君の姿をチラッと見てしまった。

 希莉と仲たがいしてしまった時のあのやるせない気持ちが、ここでもあらわれる。

 とても寂しい、悲しい、気軽に近づけないと嘆くあの気持ちが再び私の胸に蓄積されたのはなぜだろう。

 留学を素直に応援できなかった私の意地悪な感情故に、私は近江君に以前のように接しられなくなってしまった。

 また一つ自分の周りが狭まっていく。

 それが心が狭いということだった。

 高校生活がこんなに閉塞感を感じるところだとは思わなかった。

 このまま早く家に帰りたかったが、今度は部活という試練が待っていた。

 これも足取りが重かった。



 この日の練習場所は押さえていたので、部員達はそれぞれやれる事をしていた。

 加地さんと櫻井さんが練習している部員と接触している間、私は一人部室で軽く掃除をして、その後はサッカーボールを磨いていた。

 最初はこの部屋の匂いに顔を背けたけど、入ってみれば気にならず、今ではすっかり慣れてしまった。

 自ら望んでやったことではないけれど、成り行き上、やらなければならない責任感を一人で負ってしまった。

 これも近江君が私をそうし向けた部分もあると思う。


 近江君が係わったから、こんな方向に来てしまった。

 それなのに近江君は私を巻き込みながら、関係ないとさっさとアメリカへ行ってしまう。

 私だけが巻き込まれたまま、足かせ付けられて働かされているみたいで、理不尽だ。

 近江君が留学してしまうことを知ってしまった今、もっていきようのない思いが私を苦しめる。


 一人もんもんとしながら、サッカーボールを強く擦っていた。

 そんな時に草壁先輩が部室に戻ってきた。