「あっ、それじゃ私、そろそろ行くわ。草壁君から聞いたけど、近江君はいつも昼休み図書室にいるのよね。また時々覗くわ」

「別に来なくていいよ」

「何言ってるのよ。本来なら二年生でいつでも会えたのに、一年生のままなんだから」

「仕方がないだろ。自業自得さ」

「いいえ、近江君はわざとその道を選んだのは分かってる。全く知らない環境で一からやり直したかったことも」

「櫻井はうるさいからな」

「これからはもっと覚悟してね。私も一緒にアメリカ行くんだから」

 櫻井さんは楽しみとでも言わんばかりの笑顔を近江君に向けていた。


「それじゃ、遠山さん、また部活でね」

 爽やかに櫻井さんは去っていった。

 全てが完璧な人だった。

 スタイルも、性格もよく、そして何より容姿も美しい。


 敵わない人だから、最初から雲の上の存在だと思って憧れていたが、櫻井さんはこれから近江君のもっとも近いところで一緒に勉強する事になると、話は別だった。

 そして近江君が居なくなる。

 私はどんな顔をして近江君を見ていたのだろう。

 近江君は居心地悪そうに、私の様子を伺っていた。