「千咲都ちゃん、それ、イライラする」

「えっ」

 いつか聞いたお決まりの言葉が出てきた。


「俺が、好きだって言ってるんだから、そのまま受け入れたらいいじゃないか。千咲都ちゃんはそれだけ俺には魅力的だってことだ。どうして君は自分に自信がもてないんだい。何をそんなに卑下するんだ。それだからいつも謝ってばっかりで、人につけこまれてしまうんだよ。それは俺が変えてやる」


 昼休みにいきなり手を繋がれた事も考慮して、草壁先輩は強引な所があるとこの時感じた。

 圧倒されて、無理やり引っ張られて振り回される。

 気が休まらない、自分の思うように話せない、まだ遠慮して自分をさらけ出せないものがあった。


 私を好きでいてくれる事は嬉しさを飛び越えて光栄に値するというのに、私は素直に受け入れられずに戸惑ってしまう。

 本気で草壁先輩をもし好きになったとしたら、今度は嫌われたくない防御が働いてもっと無理してしまいそう。

 草壁先輩の意外と独占欲が強いところも、私には重荷になりそうにも思えた。

 調教されてしまうような、対等に向き合えない力関係がどうしても拭えない。


「千咲都ちゃん、さっきから黙ってないでなんとか言ったらどうだい」

「あの、私やっぱり草壁先輩とは付き合えません……」

「ダメだ!」

「えっ」

「まだ、答えを出すのは早い。それにその理由を俺にちゃんと言えるのかい?」

「それは、その」

「そこで、また勿体無いとか釣り合わないとか言うんじゃないだろうね。俺はそんな理由では納得できない。断るのなら納得できる理由でなくっちゃ。千咲都ちゃんは臆病になってるだけだ。俺は千咲都ちゃんに絶対好かれる自信があるんだ。ほら、もう一度考えて。はい、やり直し」

 最後はにっこりと微笑んだ。

「はぁ……」

 やり直しといわれても、一体何を言えば分かってもらえるのだろうか。