「いいって、いいって、今まであの場所を確保できてたことがラッキーだったんだよ。練習なんか、渡り廊下や、体育館の隅でもできる」

 宗谷部長は大らかに許してくれたが、今までいつもの場所を確保できていたのは、櫻井さんがしっかりと管理していたからでもある。


 よりにもよって、櫻井さんが休みのときに、こんなことになるなんて。

 これでは私は代わりが務まらない無能で役立たずと言ってるに等しい。

 それに私にはサッカーボールを顔で受けたという失態もある。

 てんでいいことないから余計に焦る。


 だけど私は確かに一時間目が終わった時、加地さんに相談した。

 加地さんがやると言ったから私はそれを信じて任せた。

 どう考えても加地さんの策略に私はまんまとひっかかり、そしてわざと罪を着せられてしまったと思わずにはいられなかった。

 そっと加地さんを横目で見れば、意地悪い笑みを私に投げかけていた。

 あくまでも私は仕事ができないマネージャーとしてレッテルを貼りたいのだろう。


 でも部員の前でいい訳をしたところで見苦しく、そして証拠もなく加地さんは巧みな話術で私をさらなる悪者として仕立てあげることだろう。

 私は煮えくり返る思いをぐっと堪えて、俯いていた。

 そこに草壁先輩が声をかけた。


「んー、でもなんかおかしいね。千咲都ちゃん、何かあったんじゃないの?」

「えっ、いえ、その、ちゃんと確認しなかった私が悪いんです。本当にすみませんでした」

「別に責めてるわけじゃないから。気にしないで。いいじゃん。こんな日があっても」

 草壁先輩は私の側に来て、ポンと肩を叩いて激励してくれた。


「そうそう、気にしない、気にしない。俺達はどんなところでも練習できる」

「そうだよ。こういう時は校舎の廊下走り回ろうか」

「おう、それいいね」

 皆明るくノリよく前向きだった。


 半泣きだった私は、みんなの気遣いに励まされ涙をこぼすまいと必死に耐えて笑っていた。


 この日は、屋根があるところでフットワークの練習に励み、いつもより一層足を動かしていた。

 校舎と校舎を結ぶ渡り廊下は、直線で屋根があり、そこに障害物を置いてドリブルするには適していたし、反復横とびや足を機敏に動かす練習をするにはもってこいだった。